タナゴ竿の素材として使われている竹、あるいは私が使えそうだなと思った竹を挙げて、 その若干の説明を書いています。 布袋竹、矢竹、丸節竹、蓬莱竹、高野竹、黒竹 について記載しています。 (このページでは、各々の竹の記述の欄の最初の■にアンカーを打ってありますので、 竹の種類毎の記述のURLを指定される場合は■をクリックしてご利用ください。)
標準和名:ホテイチク 学名:Phyllostachys aurea
別名:コサンチク
タナゴ竿と言ったらやっぱり布袋竹ですかね!この竹は昔、中国大陸から持ち込まれた竹らしいです。 矢竹、丸節竹、高野竹の三種などの竹はすらりとした女竹(おんなだけ)の仲間ですが、 この布袋竹は節がゴツゴツしている男竹(おとこだけ)です。
布袋竹は自然にはほとんど生えていません、野布袋といっても昔誰かが植栽したものが増えているのです。 昔に河川の堤防などに植栽されたものが増殖している場所が時々見られます。 私が知っている限りでは和歌山県と兵庫県の山中の河川敷で三箇所、三重県と岐阜県の河川敷ニ箇所、 石川県の道路の法面一箇所です。 幹の太さはせいぜい25mm〜30mm高さは5m〜6m程度であるので 真竹や淡竹、孟宗竹とは竹藪の高さが全然違います。 葉も比較的小さく孟宗竹の葉くらいですので遠くから見ても見つけやすいです。
この布袋竹の根元は独特の形状の節となっており他の雄竹とは簡単に区別できます。 梢の方になると他の雄竹とは見分けがつかないのですが、 箸か鉛筆くらいの太さの幹においては節のすぐ下にプックリ膨れた部分が出来ているのでこれで判ります、 ただ、枝の節ではあまりこんな膨らみは無いようです。 また、淡竹や孟宗竹と同じように枝の第一節間は中が中空になっていない場合が多いです。 私は布袋竹の枝でもタナゴ竿作りに挑戦しています。
高さ数mの竹林 | 先端部の葉の様子.1 |
先はこんなに細い | 先端部の葉の様子.2 |
最近、竹で和楽器を製作されているある方に、 この布袋竹には真竹系のもの、淡竹系のもの、さらに孟宗竹系のものまであると教えていただきました。 そういえば確かに生えている地方によって少しタイプが違うなあと感じていたことが以前からありました。 地域的な個体群の特徴の差かと思っていましたが他種の竹と交雑しているものもあるのかもしれません。
また、生えているところの環境によるものなのか、
それとも株の遺伝子的な違いによるものかははっきりしませんが、
主稈(幹)の頂部や枝先の葉の大きさや形が違うものも見られます。
それに伴い稈先端部の細さにも随分違いがあることが解かりました。
タナゴ竿の穂先に都合がよいものはなかなか見つけ難いです。
(2006年12月24日)
標準和名:ヤダケ 学名:Pseudosasa japonica
別名:篠竹・ヤノタケ・ヤジノ
この竹は昔、矢の軸として使われたところから矢竹と呼ばれるようで, そのままの読み方の「ヤダケ」が標準和名になっています。 武家屋敷の敷地の片隅によく植えられていたようで、今でも人家のそばによく植えられています。 また、山すそや河川敷にも生えていますが丸節竹の生えているところよりも 標高の高い渓流のそばにも生えています。
ハカマは節間の長さの4/5程度の長さで、これも3年目くらいからボロボロになって剥がれ落ちます。 ハカマとは漢字で袴です、筍の段階から付いていた竹の皮のことです。 ハカマという呼び方は和竿の世界だけの用語のようです。 矢竹は高さ数m程度まで、太さ25mm程度までですが、丸節竹と違って枝の出方は1本ずつ互生します、 年を重ねると枝の枝が増えてきます。矢竹の葉は、丸節竹のそれよりも大きいです。 また、丸節竹の葉は冬季にたくさん枯れて淡い黄色からベージュ色を呈するのに対し、 矢竹の葉は真冬でも濃い緑色のものが多いです。 節の部分は芽の反対側がわずかに出っ張っていますが, 全体として素直できれいですので和竿ではもっぱらヘラ竿に使われています。
通常はタナゴ竿に使える太さの主稈は大変少ないのですが、
主稈が途中で折れていたりすると立派な枝が下部の節から伸びてきます、
この枝がちょうど良いのです。
(2006年12月24日)
標準和名:メダケ 学名:Pleioblastus simonii
別名:篠竹・苦竹・フシゲメダケ・イセメダケ・ニガンコダケ・オンナダケ・カワタケ・コマイダケ・他
丸節竹という呼び名は和竿界での言葉です。標準和名は「メダケ」だと思います。 極端な寒地以外の日本全国に生えているようです、上記のように別名がいろいろあるのは 各地で昔から人々の生活でこの竹の利用が多かったのではないか?と考えます。 野原や山すそ、河川敷などに広く生えている竹です。 この竹は、生えている場所の環境によるものか、亜種のような遺伝的特徴の違いによるものか、 形質がかなり違うものが見つかります。調べてみるとメダケを代表とする「メダケ属」には多くの種があり、 西日本に分布するネザサ、東日本に分布するアズマネザサに始まり、 アオネザサ(アオメダケ?)、ケネザサ、その他何種もあることが解かりました。 みんなが「丸節竹」と呼んでいる竹はいろいろな種をまとめて呼んでいると考えた方がよいかもしれません。
枝葉が密生しているタイプ | 枝葉が疎生しているタイプ |
しかし、大きく二つに分けると、葉がやや短く、稈梢部の節が詰まってしまい枝葉が密生して見えるタイプと、 葉がやや長く、節間が稈の上方までバランスを保って適度に大きくなっており 枝葉が疎生して見えるタイプがあります。 実際にタナゴ竿に使う場合は後者のタイプの方が適しています。 ただ、この竹は節上部がかなり出っ張っており「仕舞い込み」をする和竿には使用されません、 また古竹では節のところでポッキリ折れやすいので使う場合でもニ年古竹か三年古竹でしょう。
ハカマ(筍の時から被っている皮)は節間の長さの1/2から1/3程度の長さで、
竹が生えてから3年目くらいからボロボロになって剥がれ落ちます。
枝の出方は放射状にたくさん出ます、
これは毎年同じところから生え出てくるようで古い竹ほど枝の数も多いです。
高さは数mまで、太さは20mm程度までです。
タナゴ竿に使えるのは主稈の細いもの、または枝です、
稈の太さ15mm程度のものの枝に丁度よい太さが見つかります。
(2006年12月24日)
標準和名:ホウライチク 学名:Bambusa glaucescens
別名:ー
暖地に生えている竹です。 近畿地方では紀伊半島南部の海岸付近から河川沿いの山間部に生えていました。 この竹は日本には元々生えていなかった竹のような気がします。 熱帯性の竹(bamboo)に多い叢生(株立ち)するタイプです、 遠目で見るとちょうど噴水のようなシルエットの生え方です。 高さ数m〜10m程度、直径は40mm程度まで、 冠稈部(上の方)には枝が多いです。 稈全体としてはテーパーが少なく太さの割りに節間が長くみえます。 葉は小さく淡竹や孟宗竹よりもさらに小さいです。 枝も節間が長くテーパーが小さいです、また枝の先はかなり細く2mm以下のものもたくさん見られます。 繊細なタナゴ竿としてやや胴に乗る調子のものを作る場合にはこの枝が丁度良いと思います。 この蓬莱竹の枝で「のべ竿」を作ったことがあります。 元径3.8mmで長さ1.2mあり、枝先も細いのでかなり軟調になりました。 しかし、竿としては真竹の削り穗を継いで作った方がよいと思います。
左が叢生している蓬莱竹 | のべ竿を作ってみた |
この写真は7月ごろ南紀で撮影したものです。
左側に写っている噴水状に株立ち(叢生)しているものが蓬莱竹です。
同じ写真の右側は散生する矢竹です。
右の写真は、蓬莱竹の枝だけで作ってみた「のべ竿」で全長3cm程度のタナゴを釣り上げた時の曲がり具合です。
(2006年12月24日)
標準和名:スズダケ 学名:Sasa borealis v. purpurascens
別名:コウヤチク、スズ
竹に興味が無い人なら「笹」で片付けてしまいそうな細い竹です。 高野竹という呼び名は和竿界での言葉で、標準和名は「スズダケ」です。 主に暖地の太平洋側の標高の高い山に生えている竹です。 内陸部の標高 200m〜300mあたりにも生えていることがありますが、 竿の素材としての質がよいのは標高900m前後のものだと言われています。 高さ2m〜3m程度、直径は8mm程度まででまれに10mmを越えるものがあります、 だたし細いものも少なく直径2mmなどというものはほとんどありません。
冠稈部(上の方)には枝が出ており 主稈の先は直径3mmくらいで寸詰まりになって枯れているものが多いです。 稈全体としてはテーパーが非常に少なく、また肉厚となっていますので竿にした場合はやや持ち重りがします。 節の部分の出っぱりはほとんど無く、たいへんスラッとした姿ですので美しい竿に仕上げられます。 しかし、この竹の特徴はその姿ではなくて粘りにあると言えます、 見かけの比重が大きいので反発スピードは遅いのですが 反発力自体が強く粘りがあるのでヘラ竿の穂持ちに使われていることが多いです。
3年物の冠稈部 | 節は「芽なし」が多い | 笹と呼んだ方がよいか? |
高野竹の根元から稈の中間部分までは節から枝が出るための芽がほとんどありません、
このような節を「芽なし」と呼びます。
また節間長さは太さの割に短く、これが矢竹ならすべて「小節」と言ってもよいくらいです。
また、乾燥気味の日当たりのよい斜面に生えているものは多少テーパーも大きく節も詰まっていますので、
タナゴ竿では元竿と元上に使うと面白いかもしれません。
(2006年01月03日)
標準和名:クロチク 学名:Phyllostachys nigra
別名:ー
黒竹は淡竹の仲間です。よく庭園などに植えられていますが、 時々人里から離れた山の中や田んぼの畦や河川敷などにも生えていてびっくりすることがあります。 これらは誰かが植えたか株を川に捨てたかということで生えているのだと思います。 ちなみに、この黒竹の画像は我が家の庭で撮影したものです。 黒竹は竹の肌の表面だけが小豆色がかった黒色をしています、 削ったり磨きすぎたりすると黒い色がはがれてしまいます。 また生えてから2年くらいまでは茶褐色のマダラ模様です、 年を経ると徐々に黒くなります、3〜4年しないと「黒いな!」という感じにはなりません。 なお、稈基部は比較的早く黒くなりますが稈梢部は黒くなるのがやや遅いです。 我が家の庭にもこの黒竹を植えていますが、ジイ様が数本だけを残して毎年多くの新子を切ってしまいますので 「今度から切らないように申し入れ」しようと思っています。
こんな太さで1mちょっと | 細い先端部 |
淡竹の仲間といってもあまり大きくなりませんので、
特に株が小さい内は、タナゴ竿に手ごろな太さとテーパーのものが生えます。
布袋竹よりもテーパーがやや少ないので面白いかなと考え、これからタナゴ竿に使ってみます、
色が渋いのも魅力です。
黒竹はマダケ属ですが、淡竹の仲間なので先っぽの葉っぱは3枚である場合ががほとんどです。
そして、枝は淡竹のそれと同じく内部が中空になっておらずソリッド状態です。
黒竹の枝を使う場合はちょっと火入れと矯めが難儀ですが、
たいへん細いものがありますので魅力的だと思っています。
(2006年12月24日)